きみは、誰ですか?②

2019年10月13日

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 だけど隣には、ひとがいる。

 名前も知らない女の子が、ベッドの脇に腰掛けている。
 だけど会話はない。普通一般に行われるやり取りは、行われない。

 不思議だった。

 それはぼくが今まで生きてきた経験上、ありえないことだった。
 初めての体験。ひとは、ひとと会話を交わすためだけに存在するものだと思っていた。

 目を、開けた。
 そして隣にいる筈の彼女を、確認する。
 そこにいた。存在した。
 何も語らず、視線すら交えず。だけど確かに、彼女は存在していた。

 会話が、したかった。

「あの、」

「?」

 彼女は呆けていたみたいな様子で、振り返った。
 改めて見ても、それは信じられないような美しさだった。

 月光を浴びているせいか透き通るように青みがかった髪に、切れ長の瞳。
 長いまつ毛に、細く長い指先。

 そして華奢で小柄な全身を覆う、目が覚めるような真っ青なワンピース。

 まるでしなやかな美少女を模した彫刻のようにすら、ぼくの瞳には映った。

 だから思わず、口走っていた。

「……きみは、誰ですか?」

 まず最初に、沈黙が訪れた。
 彼女は視線をこちらに固定したまま、微動だにしない。それにぼくは、妙な錯覚に捕われた。

 まるで、夢の中にいるような。

 自分自身が、一枚の絵画になってしまったような。

 そんな、それは美しい空想だった。 

「わたし、マヤ」

 絵画が、動き出した。
 そんな風に思えた。いやそれはどちらかといえば彫刻が動き出したというべきだろうか?

「わたし、妖精なの」 

 いずれにせよそれは、やはり彼女の言うようなひとの世界ではない出来事のようだった。

「きみを――殺しに、きました」

 月がウソみたいに明るくて、まるで、夢のなかにいるみたいだった。








 動揺、しようとした。
 しようと、というのが正直過ぎた。
 通常の感覚からいえば、きっと動揺するのがまっとうな感覚なのだろうから。

 だけど、そうでもなかった。
 その時の、ぼくにとっては。
 それよりも、疑問や確認の方が先だった。 

「……マヤ、ちゃん?」

 名前の確認。
 麻夜なのか、真彩とかなのか?
 名字は?
 それともぼくの聞き間違いなのか? 

「…………」

 返ってきたのは肯定でも否定でもなく、無言のプレッシャーだった。――ひょっとして、この呼び方が気にくわなかったのだろうか。

「……マヤ、さん?」 

「…………」

 これにも無言で返された。
 あまりお気に召さなかったのだろう。でも下の名前しか知らないと、他の呼びようもない。
 どうしたらいいのか。だけど会話には、呼び名は不可欠だった。

「えーと……なんて呼んだらいいかな?」 

「名前は、なに?」

 さしおかれてしまった。
 とつぜんの振りにぼくは少し間をおき、 

「ぼくは、成海遼(なるみ りょう)」

 彼女――マヤはそれに再び沈黙を経て(彼女は人とのコンタクトが苦手なのだろうか?)、

「なるみ、りょう」

「そう、遼でいいよ? あの、ぼくは――」

「マヤ」

 再び、鈴の音のような響き。
 これはそのまま、その呼び方でいいという意味なのだろうか?

「マ、マヤ……?」

「遼」

 確かめるようにその名を呼んだが、それには答えてもらえず逆にぼくの名を呼び返されてしまう。

 だけど今までのような、心に穴があいたような感覚を覚えずに済んだ。
 それはきっと、彼女がぼくの名前を呼んでくれたことに起因していると思う。

 遼、か。

「なにかな?」

「遼は、生きていたい?」

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