“黒船”ザハリダミヤノフ 内田義晃に勝ち全日本、ウェイト制準優勝、衝撃の上段廻し蹴りと飛び膝蹴りの一撃必殺!

2024年4月9日

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ブルガリアの極真空手家

ブルガリアの第11回世界王者ザハリ・ダミヤノフ

第11回世界大会において栄えある優勝に輝いたブルガリアの極真空手家だ。

私はこのときの彼の組み手、技術、そして何よりその肉体を見て、衝撃を受けていた。

ほとんど、真四角といってもいい、縦にも横にも全く隙がない、ごついと言うのを超えて、岩のような体躯。

いやもはやそれは、岩のようなゴツゴツとしていると言うよりは、どのような天災にも、波にも、不測の事態にも、無数の乗組員にも耐え得るように、完璧に設計されて作り上げられた、それまで刀や槍、弓矢、ようやく鉄砲などで戦い始めた江戸時代の日本にとっての、黒船のような衝撃を伴っていた。

今回はそんな彼のへ足跡を辿りながら、その真価について問いたいと思う。

私がザハリダミヤノフのその存在を初めて知ったのが、第9回全世界空手道選手権大会だった。

第9回世界大会

第6回世界大会まで日本がその王座を守り抜き、第7回世界大会でフランシスコ・フィリオによって優勝だけは奪われたものの準優勝は数見肇が食い込み、第8回世界大会では木山仁が再びその王座奪還し、その連覇の記録を続けていけるか否かと言う、大変重要な大会。

それまで日本の王座を守ってきた男たちは全て引退し、その成否は、前年及び前々年の全日本大会を2連覇している、内田義晃の肩に託されていた。

それまでの世界大会、前年の全日本大会で優勝を果たしているものが制するということが非常に確率として高く、ジンクスがあり、さらには内田義晃は2連覇しており、その前年の大会ではベスト4に外国人が3人まで進出している中での勝利と言うこともあって、その期待値は非常に高かった。

そんな彼が4回戦で戦ったのが、ザハリダミヤノフだった。

大きな構えから、下段回し蹴りを狙ってくる内田義晃に対して、ザハリダミヤノフは小さく固め、隙を見せずに、着実に手数を積み重ねていこうと言うスタイルのようだった。

身長185センチの内田義晃に対して、ザハリダミヤノフが182センチ、この時点では体格的にも、そして技術的にも、未だ差があるように思われていた。

しかし試合は意外な展開を見せる。

時折かかと落とし、上段回し蹴りなども交える内田義晃に対して、ザハリダミヤノフはほとんど左の突き、そして右の下段と膝蹴りオンリー。

そこに狙いを定め、浮気せずに、ただただその攻撃を積み重ねる。

全日本王者のラッシュの中にあっても、うまく右に左に回りながら的をずらし、決してくずされない。

延長において左の下段をやや効かされても、手数で相殺し互角に持っていき、試し割り判定で破ってしまったのだ。

そしてザハリダミヤノフは翌年に行われた第25回全日本ウェイト制大会に出場。

第25回全日本ウェイト制大会

準々決勝で当たった辻本選手の突進をマタドールのように右左に交わしながら、強烈な後ろ蹴り、そこから下突き、鉤付き、膝蹴りにつなげる。

準決勝では広いスタンスで攻撃を振り回してくる松村選手は相手に、内股蹴りを連発。

しっかり崩して、効かせておいてから、強烈な後ろ蹴りをお見舞いし、さらに左中段廻し蹴りにつなげて、今度は腹を効かせるかと思わせておいて、松村選手が右に移動するタイミングに合わせたのか、今度は飛び上がってまさかの左上段廻し蹴り!

ゴトン、という頭を打ち付ける音が会場に鳴り響く、まさしく衝撃映像。

スローモーションを見て気づいたのだが、この蹴り、途中までまっすぐ、まるで前蹴りのような起動になっており、それに反応して松村選手が抑えようと手を下げたその瞬間に、見事にその顎へと起動を変化させている。

位置関係的にもカウンターになっており、その破壊力たるや想像するにも恐ろしいものがあっただろう。

そして決勝で当たった赤石誠は、その時点で2年連続全日本ウェイト制重量級準優勝、その3年後に行われる第10回世界大会において4位に入賞する強豪。

そんな相手にザハリダミヤノフは一転して今度は左右の下段回し蹴りを連発。

そこから中段廻し蹴り、後ろ蹴りと腹へ攻撃を集中、しかしそれに対して赤石誠は前蹴り、膝蹴り、パンチで応戦。

しかし終了間際、ザハリダミヤノフはラッシュ、パンチの連打に加えて、お家芸とも言える内股蹴りの連打でその体制を崩す。

延長、再延長でもその粘り、技術は変わらず、無尽蔵とも言えるスタミナ、精神力を見せつける。

ギリギリのギリギリのところまで赤石誠を追い込んだが、届かず、しかしザハリダミヤノフは堂々と言える全日本ウェイト制大会準優勝を果たした。

さらにザハリダミヤノフはそのわずか5ヶ月後に行われた、第40回全日本大会に出場。

第40回全日本大会

3回戦で当たった山本選手のスピードに翻弄されるかと思われたが、的確な足払いで転がし、着実に間合いを詰めての下突き、足を止めてポイントを奪う内股への足払い、まさに動く相手への定跡を披露し、地味ながらも確かな技術を見せつけ勝利。

準々決勝では、前年の第9回世界大会でベストエイトに日本人としてただ1人優勝している、村田達也と対決。

先手必勝で前蹴りから飛び込んでパンチの連打につなごうとしてくる村田達也だったが、そこにザハリダミヤノフが下段蹴りに合わせた鮮やかなる足払い。

再開して再び自分のペースにしようとパンチをしかけてきたところに左の上段膝。

ガードの上だったがタイミング、間合い、ぴったりと合っており、これはかなり危なかったと思っているところに、今度は胸への突きから下突きを腹に効かせてガードを下げさせておいての、再びの上段膝!

正直、目を剥いた。

ザハリダミヤノフは確かに強かったが、それは体の強さ、着実な技術、手数、それに裏打ちされたものであり、1本を取るものでは無いように感じられていたからだ。

そしてザハリダミヤノフは準決勝にて、日本のエースと呼ばれ、数見肇・木山仁なき中、日本の牙城を守ろうと1人戦い続けていた、田中健太郎と相対す。

ザハリダミヤノフは開始直後から、強烈無比の左下突き、それにより腹を効かせ、そこから左の下段につなげて、どんどん攻め込んでいく。

途中右の上段を見せて相手の注意をそちらに逸らせ、さらに中段膝蹴りで場外へ叩き出す――

かと、思われた。

それほどの、田中健太郎の反撃を一切許さない激しいラッシュ。

その瞬間だった。

誰もが皆、その中段膝蹴りの強烈さに意識を持っていかれ、田中健太郎もそれによりガードが下がった、そこにまるで引き寄せられるかのような事情段膝蹴りが、田中健太郎の顎を完璧に捉えていた。

おそらく当たった瞬間、田中健太郎自身も、訳がわかっていなかったのではないだろうか。

それほどまでに一瞬の、早業だった。

再開後も勢いは止まず、田中健太郎にやや左足を効かされながらも、パンチ、そして膝のラッシュでどんどん追い込んでいった。

決勝ではダメージを重ねていた足に重たい下段を受け、やや優勢に持ってはいかれたが、しかしそれでも海外勢としては脅威の無差別の全日本大会準優勝と言う結果に輝いた。

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