ヴォルグ苦難の世界戦!準備期間無し審判買収の中母に誓ったホワイトファングで掴んだ栄光!
ヴォルグ・ザンギエフ
私にとってのボクシングの教科書とも言える漫画、はじめの一歩。
いじめられっ子だった幕之内一歩が鷹村守と言う天才ボクサーと出会い、鴨川会長との運命の邂逅を果たし、数々のライバルとの戦いを繰り広げ、日本チャンピオンに登りつめ、それと同時に様々な素晴らしい実際にあったボクサーをモデルにした登場人物たちとも、実に魅力的な戦いを繰り広げるこの作品。
非常に素晴らしいキャラクターたちだけで悩ましいところではあるが、実際のところ私は正直なところ1番気持ちが惹かれているというのが、ロシア出身のヴォルグ・ザンギエフと言えるかもしれない。
私が初めてこのはじめの一歩、漫画のそれを取ったのが、19巻で、そこで繰り広げられているだろうが、A級トーナメントの決勝、幕之内一歩VSヴォルグ・ザンギエフだった。
非常にイケメンで、銀髪で、しかし性格は非常におとなしくて丁寧で、しかし試合になると一転して激しく、一緒にして放たれるアッパーとチョッピングサイトと言う超高速コンビネーションホワイトファングのそのかっこよさに、しびれたものだった。
その圧倒的なパワー、スピード、そして何よりテクニックに、幕之内一歩は勝機を見出せず、アマチュア出身と言うことでプロとの違いによるスタミナ切れ、それを待つしかなかったと言うほどの強敵だった。
しかしそんな彼が、幕之内一歩に敗れて23巻では浪花のロッキーと呼ばれる、幕之内一歩最大のライバルの1人と言われる千堂武士と再起戦を戦い、間違いなくポイントでリードしていながら、ホームタウンディシジョンで敗れると言う悲しい結果になり、そしてそのまま外人ボクサーとして商品価値なしとなり、地元に返されてしまう。
そして空港に見送りに来た幕之内一歩に、最後に使う日本語として、さようならという言葉を残し、彼は去っていった。
しかしそんな彼だが、愛する母をなくし、カムバックして、元来持っている潜在能力をフルに発揮して、渡米し、アウェイのリングで並み居る強豪なぎ倒し3つの団体でランキング1位上り詰めたが、しかしあまりの実力を見せつけるために王者たちから敬遠され、干され、しかし不意に世界タイトルマッチの話が舞い込んでくることになる。
だがやはりそこにはさまざまな罠がやはり仕掛けられており、まず会場はアウェイであるアメリカ、そしてその世界戦が発表されて、なんとわずか1週間後の試合と言う信じられないほどの急な話。
もともとやる選手が怪我をしての代役と言うことだが、当たり前だが全く準備期間がなく、減量や調整、スタミナづくりができておらず、厳しい状況の中、ヴォルグは即答し、その厳しい戦いに身を投じることになる。
その上相手は超がつくほどのテクニシャンであり、ヴォルグザンギエフほどのテクニックを持ってもなお、何とか均衡を保つことが精一杯。
そうなると当然、準備期間がなく、スタミナがないヴォルグザンギエフが、そして地元びいきをされるであろうヴォルグザンギエフが、そのまま安全策で言ってしまえば、負ける事は確定。
決断せざるを得なかった。
身を削る、決意を。
まっとうにやったら、同じ土俵に立ったら、ハイレベルに身を投じていたら、結果的に僅差で、そして相手の土俵に立ったことで、敗れ去ってしまう。
だからこそ、安全策を捨てて、身を削って、打たせて、打たせて、自分のスタイルではなく、勝つために、犠牲を決意する。
その時の彼の言葉が、非常に印象的だった。
「に…日本で覚えた…言葉が…ある」
ヴォルグは回想する。
大好きなボクサーのあの姿――戦い敗れた、幕之内一歩、それを形容するに最もふさわしい言葉。
「や…
大和魂」
セカンドを務める浜団吉が答える。
「嫌いじゃないわい」
大和魂
そして狙っていた技も避けられ、最悪のボディーブローを喰らい、もう顔を上げるしかない状況でも頭をつけて、無様でも、勝利に徹して、前に出ようするその姿を見て、浜団吉は再びその言葉を綴る。
「き…嫌いじゃないわい、大和魂…!」
そしてヴォルグは、日本での相手、幕之内一歩の姿を思い出す。
「あの時彼に教わったんだ。
まだ意識がある、心臓も血も脈打っている。
動けるうちは希望を捨てるな、あきらめるな。
自分に負けるな!!」
そして最後の最後のとっておきである、通常のアッパーから拳を縦にして隙間から潜り込ませる燕返しを繰り出し、それが半ば成功したかと思ったが、ギリギリのところで上腕で挟み込まれ、それは止められてしまう。
チャンピオンが一息つく。
その瞬間、浜団吉が意気込む。
「燕返しすら捨て駒よ!!」
その瞬間、タメにタメて、ギリギリまでいや、限界を超えてつなぎとめられていた狼の牙が、その顎を完璧な形で、貫いていた。
変則型ホワイトファング。
チャンピオンは倒れ、大観衆はため息、応援している幕之内一歩や千堂武士、セコンドは歓声を上げ、半死半生のボルグザンギエフも震える拳を握りしめて勝利の視線をセコンドの浜男吉に向けていた。
しかし10カウントとは信じられないほど遅く、そしてしばらくしてヴォルグの目の前にはありえない光景が繰り広げられていた。
レフェリーが、チャンピオンを抱き起こす。
そして声をかけて、続行を促す。
それに浜団吉が猛る。
「ホームならなんでもありか!?
これはが許されてなるものかあっ」
押さえつけるセコンドに、浜団吉は再度訴える。
「落ち着けるものか、もはやヴォルグは戦える状態ではない、動けんのじゃ〜」
そして千堂武士も怒る。
「ホームの事はわいも強く言えんが、これはだめや。
裏で手を回しとる、金が動いとる。
やっぱり現地に行くべきだった。
関係者全員ギタギタにしたるのに…」
そして幕之内一歩、
「許されませんよこんなこと…絶対…絶対に許されませんよ」
しかし無情にも意識が飛んでいたチャンピオンには記憶がなく、促されるままにファイティングポーズをとってしまう。
浜団吉が無念の言葉を心に宿す。
「あー…たっぷり休ませてしまった
会心の…最期の一撃が無駄になっちしまった…」
千堂武士は拳を振り上げ机に叩きつけようとして、その代わりに幕之内一歩が叩きつけ、砕けたガラスが宙に舞う。
叫ぶ。
「断固講義だ!!
続行の必要なんてないっ
理不尽すぎる!!」
しかしそんな幕之内一歩の叫びとは裏腹に、皆の思いを置いて、ヴォルグはコーナーから離れていく。
まるで真っ白な、実を凍りつかせるような、ブリザードの中に、身を投げるかのように。
それに幕之内一歩は震える。
「なんで…抗議しないんですか?
なんでいつもヴォルグさんだけ、逆境の中で戦ってるんですか?
どうして…
どうして耐えられるんですか!?
ヴォルグさん…!!」
ヴォルグは思い出す。
試練に立ち向かう
母の前で墓参りをして、元のトレーナーであるラムダが投げだ、なぜアメリカを選ぶのか、自由と言う名の国が君に与えるのは祝福ではなく試練のみだ、その問いかけを。
自分がまだ幼い頃に、母が語った言葉。
「あなたは厳しい大地で育ってきた子。
あなたなら大丈夫。
どんな試練にも打ち勝てる。
おなりなさい、あなたの1番なりたいものに――」
そして幕之内一歩に気づかされた、1番好きなもの、なりたかったものになるために、最も厳しいと思われる場所であえて試練に立ち向かう、そこで自分の思いがどれほど強いか。
限界を越えて、体の言うことを聞かない、頭も回らない。
ヴォルグは決意する。
「もう思考は停止する。
人の皮が剥がれ、動力は…本能のみ!!」
その変化を、対戦相手のマイクも敏感に感じ取っていた。
自らのダメージ、目の前にいるものが脅威の獣だと言うことを。
そして激突、ヴォルグ・ザンギエフはアッパーとほぼ同時に繰り出すチョッピングサイト、ホワイトファングに全てをかけていた。
いちどモーションを盗まれれば通用しない、そのはずの連打、最後までその牙で噛み喰らう事を、狼の本懐とした。
そんな中強烈なパンチを食らい、相討ちとなり、霞む視界、駆け巡る今までの思い。
母との抱擁、ラムダとのトレーニング、幕之内一歩との激闘、千堂武士とのホームタウンデジションによる負け、去るとき託した自らのグローブ、母の死、狼の遠吠え――
一瞬にして感情が爆発したのか、それともすべてを過ぎ去ったものとして清算したのか、最後に残るのは、ただただ闘争本能だったのか――
浜団吉がタオルを投げ入れる直前、ヴォルグは彼に託された燕返しを放ち、グローブの間から相手の顎をはね上げ、そのままホワイトファング、相手の反撃をくらいながらも、再びのアッパーからの、ホワイトファングによる相討ち。
限界を超え、出せるものがなくなり、ロープにもたれかかり、動けなくなり、その反対になった視界がとらえたものは、マットの上にうつぶせになり、全く動く気配がなくなったチャンピオンの姿だった。
試合終了。
不正すら許さない、完璧なる失神KO勝利。
「Спосиъо, МатЬ!」
感無量、凄まじい勝利、その勝利者インタビューに、ヴォルグ・ザンギエフは拳を掲げ、
「…まずは、チャンスをくれたこの国…
サンキューアメリカ」
その姿に、観戦していたオリンピック金メダリストにして元世界チャンピオンのデビットイーグルは、
「…乾杯だぜ、亡国の狼よ」
と称える。
続いてヴォルグはあくまで控えめに、
「そして…」
ここで日本語に切り替え
「成長させてくれて…ありがとう――友よ」
その言葉に応援していた幕之内一歩、千堂武士が、何とも言えない風に落ちたというか照れくさいというか脱帽というか、そういった表情を浮かべる。
そして最後にヴォルグはこの言葉で締める。
今は亡き、母の言葉を思い浮かべて。
おなりなさい
あなたの1番なりたいものに
産んでくれてありがとう!
「Спосиъо, МатЬ(ありがとう お母さん)!」
ずっと不運に見舞われ、努力して、真面目で、一生懸命で、母親想いで、そんな彼なりに、幕之内一歩が語っていた、なんでヴォルグさんだけいつも、逆境の中で戦っているんですが、なんで耐えられるんですか、そんなふうに思っていた。
千堂武士に地元びいきで負けた時も歯がゆくて、悔しくて、すごかったって言う幕之内一歩の鈍感さが腹立たしくて、1時千堂武士が嫌いになった位で、でも応援して、その完璧なるスタイルに憧れ、その彼が、ついに身を削る戦いで頂点をつかみ、ホワイトファングで世界を制して、そして最後の言葉が、スパシーバマーチ。
至高の、究極とも言える、絶対的な戦い、それがここにはあった。
おめでとうヴォルグ・ザンギエフ。
物語だとわかっていても、言わずにはいられない、言わずにはいられない、そんなリアルがここにはあった。
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