風切り音

2019年11月17日

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 不意に。

 言い争っている二人の間から、声が聞こえた。

 それに天寺と大島、二人同時に声がした方に目をやると、そこには――腹を抑え、未だに大島に肩を掴まれ、痛みに顔をしかめながら震えている遥が、狂犬のような形相で大島を睨んでいた。

『…………』

「は……な、せ、って……言ったんだ」

 呆然とする二人を尻目に、その口が少しずつ開かれ、掠れた言葉が紡ぎ出されていく。

「……この、油ゴリラが。何が遥ちゃん、だ。な、めんな……よ。人を、女の子扱い、しやがっ、て……お前みたいに、力があれば偉いとか、思ってる……やつが……一番、だいっきらい、なんだ」

 そう吐き捨て、未だに自分の肩を掴んでいる大島の手の甲に――いつの間にか密かに握り締めたシャープペンシルを、突き刺した。

「――――っ!」

 驚きと痛みに目を剥き、手を引っ込めて、大島はもう一方の手で傷口を抑える。抑えた手の下からも血が滴り落ち、大島の顔は苦痛に歪む。

 そのままユラリと幽鬼のように遥は立ち上がり、顔だけで手下たちの方を向く。

「……お前らも、力があるやつに付けば自分たちも偉くなれるとか思ってんだろ。……ざけんなよ。世の中、力があれば偉いわけじゃねーんだよ。それでイバってるやつなんて、ゴミだ。そんな奴らに、俺は屈しないからな」

 そんな遥の危うい迫力に、いつの間にか教室中の人間の目が集まっていた。
 そんな、今や全クラスメイトたちの注目の的となった遥は、天寺の方を向き、俯く。
 震える右手が握りしめたシャープペンシルの芯から、大島の血が一滴、床に零れ落ちた。

「……気に掛けてくれて、ありがとう。それには礼を言うよ。……でも、これは俺の問題だから。まだほとんど話したこともない君に迷惑をかけるわけにはいか」



 ひゅん、という風切り音。







 さっきの大島が振り回した重々しいものとは全く異質な、鋭いもの。
 それに遥は思わず言葉を止めて、顔を上げる。

 すると何故か何を思ったのか目の前の天寺が両の手の平を、上に向けていた。
 まるで何かを受け止めるように──と思っていると、まさにその手の中にジャリッ、という音を立てて、二つの物体が落ちてきた。

 砂鉄入りのグローブだった。

「…………」

 ぽかん、と遥が口を開ける。
 今しがた起こったことの意味が、理解できない。
 今の風切り音はなんだ? なぜ大島のグローブが天寺の手の平に降ってきたのか?

 いったい今のほんの一瞬で、なにが起こったっていうのか?

「お前は、お前の意地を通した」

 天寺が言った。
 その口元はにこやかに、何か楽しいものを見るように緩んでいる。

「だからオレは、お前のプライドを守った」

 そして、何か重たいものが床に倒れる音が響いた。同時に沸き起こる悲鳴。

「お前、カッコいいなー」

 彼は、笑っていた。

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